王女ちゃんの執事3『き・eye』男の娘、はじめます。
 ナイスアイデア、ナイスおれ。
「なぁ、虎」
「…ん」
 行先も決めないそぞろ歩きに、こそこそ話はデートの定番。
「おまえ、中国語で虎のことなんていうか、知ってるか?」
「んもう! 虎は好きくないのっ!」
 だからぁ。
「マオっていうんだよ。だからマコトにチューオーの央で真央。なんかよくね?」
 素直におれの腕に抱かれながら虎が首を傾げて顔を上げる。
 五十嵐が自分もしているような色味の少ないナチュラルな、まつ毛だけが瞳を彩る化粧は、子猫のようなアーモンドアイによく似合っている。
「この猫はおれが見つけたんだから命名もおれ。おれとデートするときは、おまえ、真央な。うん、いい、いい」
「にい…ちゃ――…」
 ぶわっと盛り上がる涙にあわてたのはおれ。
 ハンカチ? ティッシュ?
 おれは五十嵐じゃない、化粧直しなんてできねぇぞ。
「んもう。ハンカチも持ってないの? 待っててあげたのに」
 生意気な。
 人差し指で頬をぬぐってやると虎がはにかんだ。
「女の子って大変……。涙が出てもこすれないんだね。――もう、泣けない…や」
「…………」
「ねぇ、もう少し、このままでいても…いい?」
 いいに決まってる。
 誰かいないのか、知り合いは。
 今こそおれを見ろ。
 見つけろ吾川。言いふらせ!
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