契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました


「宇佐美さんが毎月食べに来てるのって……このコースかな?」

「あ、はい、そうです」


 革張りのメニューを開いた一番上にある〝季節のコース〟を指さし見せ、桐生さんは確認する。

 返事をすると待機する初老の男性に「コースで」とオーダーした。


「雰囲気のいい店ですね」


 ふたりきりになると、桐生さんは店内の様子をうかがいそんな感想を述べる。

 少し控え目なオレンジの照明と、シャンデリアからのキラキラとした光。

 味のあるアンティークな客席は、ベロア調の背板にカブリオールレッグが美しいチェアが印象的だ。


「そうですね。なんか、落ち着きますよね」

「いつもは誰とここに?」

「ひとりです」

「ひとりで?」

「はい」


 桐生さんのリアクション的に、まさかひとりで通っているとは思いもしなかったようだ。

 それ以上聞いてはいけないと思ったのか「そっか、ひとりで……」と呟く。

 何組かテーブルにつく客を見ても、ひとりで来ている様子の客はいない。

 思い返してみても、これまでひとりの客は見かけたことはなかった。

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