やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
 私は振り返った。

 日々の業務で身に染みついた営業スマイルをここぞとばかりに披露する。相手は大嫌いな三浦部長だがひとまずそのことは脇に置こう。

「おはようございます。今日も寒いですね」
「そうだな」

 三浦部長がにこりとしかけ、すぐに険しい顔つきになる。

 ううっ、怖い。

 これ、もしかして怒ってる?

 理由がわからず私は戸惑う。脳内で緊急会議を開いた。議題は「私はどんなミスをしてしまったのか」である。

「朝からまゆかの笑顔が見れた。超ラッキー」

 頭の中の議論が白熱している私には彼のつぶやきなど聞こえるはずもない。

「ところで、あれだ」

 三浦部長がその切れ長の目を鋭くさせる。眼力が強すぎて私の脳内会議は強制的に終了した。今は部長が怒っている原因を探している場合ではないようだ。
 
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