やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
「ぶ、部長のその人への好意は何となくわかりました。でも、付き合ってるとかじゃないんですよね」

 ちょい気を取り直しつつ質問した。

 聞こえてくる館内BGMが心音と一体化しかけている。私の胸の鼓動はアップテンポの曲と相性がいいようだ。

「僕は付き合いたいんだけどね」

 なぜか彼の視線を感じる。

 とくん、と私のリズムが一段速まった。体温の上昇とともにとくとくとくとくと加速していく。

 落ち着け私。

 部長が付き合いたいのは私ではなくて誕生日が近い他の人よ。

 じゃなくて。

 そもそも私は部長のこと嫌いだし。

 付き合う以前の問題だし。

 軽い目眩を覚えながら私は案内板の文字に目を走らせる。

 ああ、六階に家具売り場が出来たんだ。ローテーブルとか見ておきたいなぁ。
 

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