やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
「大野はいきなり指輪とか贈られたら引くか?」

 三浦部長の声にこつんと意識を小突かれる。

 私は自分の左手の薬指に触れた。何もはまっていない薬指が心許なくて思わずため息が出そうになる。

 冷静さを装って返した。

「そういうのは誰にもらったかによって変わると思いますよ」
「なるほど、それもそうだな」

 三浦部長が納得したようにうなずく。彼は案内板から化粧品の売り場のほうへと顔を向けた。さらに先には香水が売られている。

「じゃあ香水……いや待て、これはもう贈ったか。今のはなしだ」
「……」

 ふーん。

 その人には香水を贈ったんだ。

 でも私だって部長からもらってるもんね。

 私は何だか面白くなくて口を尖らせる。

 胸の奥がもやもやしていた。
 
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