転生悪役令嬢のお目付役
「ご無事でなによりにございます。ジュリアンもつい先刻に目を覚ましたばかり。私には唯一のひとり娘ゆえ、フィリップ王子には身を呈してでも、ジュリアンを救っていただきたかった」
口調は丁寧であるものの、王子を責める様な言い草にスチュアートは眉を上げる。
「王子に犠牲になれと?」
グラフィス卿は口の端を上げ、「まさか、滅相もございません」と形ばかりの返答を口にする。
「ただ、王子とともにいて、万に一つでもジュリアンが傷モノにでもなりましたら、責任は取っていただきたい」
譲らないグラフィス卿に、不穏な空気が流れる。すると控えめに父の後ろに立っていたジュリアンが口を開く。
「お父様。フィリップ王子は仮にも、わたくしの婚約者ですわ。責任を取るもなにも……」
鈴が転がるような声は耳障りがよく、聞き惚れているのは俺くらいだ。空気はますます重くなる。
スチュアートは、手厳しく念押しする。
「ジュリアン嬢。お言葉ですが、婚約者候補のひとりだと、ゆめゆめお忘れなきよう」