わたしたちの好きなひと
 なんにも知らないくせにっ。
「聞いてどうするのよ! もし…好きだって、恭太には関係ない」
「好きなのか」
 どうして?
 どうして、そんなこと言えるのよ。
 わからないの?
 わたしといて…わからないの?
「好きだよっ!」
 悔しくて言い放っていた。
 うそじゃないし。
 わたしは、うそを、言ってないしっ。
 駆けだしたつもりが恭太に腕をつかまれて。
「待てよ!」
 行き場が定まらないかわいそうな雨は、ぶんぶん腕を振るわたしの身体から日本海に瀬戸内海に、究極の選択を迫られて落ちていく。
「またびしょびしょになる気か、ばかやろう」
 また……?
 恭太は思いきり伸ばした腕で、わたしのうえに黒い屋根を作っている。
 自分はびしょぬれで。
 目に入る雨のしずくで、ますますしかめっ面。
 (また……?)
 ぱしゃっ、ぱしゃっ…と水音をたてて、恭太がわたしに近づいてくる。
「雨の日も練習を見てるやつなんか、おまえだけだ、あほ」
「…………っ!」
 恭太、知ってた?
 恭太、わたしが屋上から…見てるの……。
「知って…た?」
拓弥(たくみ)にタオル、持たせたろ?」
 白い豹。
 あれは…恭太のタオルだったん、だ。
 最後の50センチは、強引に引き寄せられて。
 恭太の声。
 わたしの頭の上から降ってきた。

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