わたしたちの好きなひと
 15時18分発の電車のなかで。
 向かいの座席に座っていたおばさんたちにお愛想笑いをふりまきながら、ふたりしてびしょびしょの制服の上着を脱いだ。
 すいているのをいいことに、座席に広げて天然スチームと思ったんだけど。
 わたしの制服の胸ポケットから、お守りが…ぽたっ。
「あっ……」
 拾ってくれたのは、また恭太。
「これって――。本当に御利益あると思うか」
 その真剣な顔がおかしくて。
 笑ったのをうつむいて隠したわたしの肩を、恭太の肘が小突く。
「なんだよ。おれはなぁ、亀戸天満宮にだって、ちゃんとお礼に行ったんだ!」
「うそっ」
 押しつけたまま途切れてしまった縁。
 恭太は大切に繋いでくれていた?
「だから泣くなって」
 恭太がおろおろと、周りの視線を気にするのがおかしくて。
 おかしくて、おかしくて、涙が止まらない。
 指でぬぐっても涙はつーつーと流れてきて。
 しまいに鼻水まで流れて困るころには、ハンカチを顔に押し当てて笑っていた。
「笑ってるし。…わけわかんね」
 ぼそっとつぶやいて、恭太が腕を組む。
 寝たふり?
 もっと笑っちゃうよ。

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