わたしたちの好きなひと
「すみませんっ」
 とりあえずウォーリーには頭を下げるけど。
 わたしには聞かれるなですって?
 そんなことを言うやつが、ほかにいる?
 (いないわっ!)
 かぁけぇいぃぃぃぃぃ!
 頭をよぎるのは中学の修学旅行。
 睡眠時間をけずってまで、たぶん真夜中に、宿泊旅館の正面玄関をめちゃくちゃにした前科持ち。
 よろけながら連絡通路に出て。
「死守!」
 立ちはだかった4号車のドアのまえには、窓にすぅーっとホームの様子が流れ始めてもやってくる子はいない。
「――あれ?」
 ちょっぴりわたしのなかのヤジウマが、がっかりしたそのとき。
 発着ベルが鳴り響くなか、すぅーっと背後のドアが開いて。
 乗り出してホームを見ると、階段の向こうのホームに数人の集団が転がり出ていた。
「ゃっ…」
 たとえどんなに遠くても。
 たとえみんな、制服の上着を脱いで偽装していても。
 わたしには恭太がわかる。
「恭太!」
 …ということは、もうまちがいない。
 ばか野郎どもの参謀はまちがいなく掛居。
「やって…くれたわねっ」
 また、やってくれたわね。
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