わたしたちの好きなひと
 頭に血が昇る感覚に息を整えているあいだに、もう出発のアナウンス。
 知ってる。
 委員会で掛居が言っていた。
『ふーん。名古屋駅の停車時間は1分か』って。
 窓の外の異変に気づいた先生がいたところで、間に合わないだろう。
 だけど、あなたたちだって!
 1分で!
 なにを!
 どうしようっていうのよ!

 ドン ドンドン

 あっさり閉まってしまったドアに、憤怒の拳をついたわたしの前を景色が動き出す。
 声も出せないうちに新幹線は走り始めた。
 (戻っていて!)
 ちゃんと乗っていて!
 ドンドン叩くドアの窓。
 過ぎ去るホームには、さっきの集団。
「い、やあああああ」
 手を振ってる。
 ホームのお蕎麦屋(そばや)さんのまえで、掛居が手を振ってる。
 茶色のキャスケットと、黒いフレームの眼鏡。
 茶系アーガイル模様のカーディガン姿は、おしゃれすぎてとても高校生には見えないけど。
 目が合った。
 絶対だ。
「ど…う、しよう……」
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