御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 波打つ胸の内をよそに、私は目を閉じて受け入れる。甘くて優しいキスは確実に私を(とろ)かせていく。

『愛し合えるなら結婚するんだな?』

 でもこれは、結婚という目的のためなんだ。愛されていると思えたら、どんなに幸せだろう。

 角度や触れ方を変えて幾度となく口づけが繰り返される。頬や頭を撫でられながら、次第に求めるようにキスは深いものになっていった。

 体が熱くなる一方で心は冷えていくのを感じる。

 だって、明臣さんは知らないから。

 それこそちょうど一年前、悪阻がだいぶ落ち着いて、やっぱり妊娠を伝えようと思い立ち、大きくなったお腹を抱えて彼に会うために会社までやってきた。

 元社員とはいえアポもないしどうやって中に入ろうかと迷っていたら、遠くからこちらに向かって歩いてくる人物が目に入った。

 一目で明臣さんだとわかり、駆け寄りたい衝動に駆られたものの逆に私はその場を動けなくなる。彼の隣には日比野さんがいたから。

 関係は解消したんじゃなかったの?

 そんな疑問が浮かんだものの綺麗な格好で魅力的な笑顔を明臣さんに向ける日比野さんとの間に気まずさなどは見えず、むしろ並んで歩くふたりはとてもお似合いだった。

 対する私は体調はお世辞にもいいとは言えず顔色も最悪で、化粧も服装にも気を使えていない。

『相手と家柄や育った環境が似ているのはいい。ある程度の価値観、地位や財産に固執する女性ではないのも保証されている』

 今の私を見て彼はなんて言うだろう?
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