御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 素早く踵を返してその場を立ち去る。もしかして彼女とやり直したのかな?

 そうであっても、そうでなくても関係ない。秘書としても隣ではなく、社長の一歩うしろを下がって歩くのが当然だった。私が明臣さんの隣に並ぶことはない。

 大丈夫。どうであれ彼の人生を巻き込んだりしない。この子は私ひとりでも守って育てていく。

 強く決意して、大きなお腹を撫でる。泣きそうになるのをぐっと堪えて私は前を向いた。

 あの日の記憶がずっと抜けない棘になって刺さったままだ。

『お気を悪くしたらすみません。ですが、ホッとしているんです。関係を終わらせたいと言い出した身としましては今、彼が幸せで』

 明臣さんとの関係は、日比野さんから終わりを告げたんだ。ならあの夜、彼が本当にそばにいてほしかったのは私じゃない。

 今だってもしも私がいなかければふたりは……。

 苦しい。息ができない。

「早希?」

 キスを中断させ、明臣さんが色素の薄い瞳で覗き込んでくる。私は肩で息をして浅い呼吸を繰り返した。

「……ごめん、なさい」

 懺悔にも似た罪悪感で、再会してからも私はつい謝罪の言葉を口にしてしまう。

 今だって自分から受け入れる姿勢を見せておいて、結局中途半端な真似をしてしまった。過去はどうしたって変えられない。わかっているのに……。

「早希が謝る必要はなにもない」

 明臣さんは体勢を横へずらしベッドに体を預けて、わずかに私と距離を取る。彼の手が私の頭にゆっくりと伸びてきた。
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