御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
真紀子(まきこ)から聞いた。その秘書にお礼を言っておいてくれ』

 しかし、父の口から飛び出た内容に俺は目を見張った。そして父は、今まで俺に厳しく当たってきたのは、社長の息子だからと色眼鏡で見られないように必死だったと事情を話し始めた。

 それでも後継者は俺しかいないと思い、期待して育てていた部分もあった。ところが父の意に反して自分の会社を起ち上げるというので、それがどうしても認められなかったと。

『今回の件でよくわかった。人間、いつどうなるかわからない。そのときになにが大事なのか考えたよ。……一度きりの人生だ、お前も後悔しないように生きるといい』

 今更だ、と切り捨てる選択肢もあった。今までの父の態度や関係性からそんなすぐに溝は埋まらない。簡単に和解できるものでもない。けれど。

『父さんが無事でよかった。俺は経営者としてまだまだ未熟な面も多いから、教えてほしいことがたくさんあるんだ』

 少しずつでいいから歩み寄れたらいい。俺も相手を責めるだけの子どもではなく、許せるほどに大人になったんだ。

『にしても、気乗りしなかったお前を病院まで連れて来た秘書はたいしたものだな』

 一度会ってみたいと笑って話す父に対し、俺はなにも返せない。

『私がそうだったから。ずっと後悔しています。でも社長はまだ間に合います!』

 こうして父と向き合うきかっけを作ってくれたのも、全部早希のおかげだ。彼女は今どうしているのか。あのときのような寂しい表情ではなく、幸せにしているのか。
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