御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「逆にお前は調子悪そうだな」

 父親と家に尋ねに来ていた岡崎に指摘され我に返る。

「優秀な秘書が仕事を辞めたんだ」

「へー。引き止めなかったのか?」

 静かに返すと、岡崎は軽い調子で聞いてきた。わずかに苛立ちを覚えたが、それは顔には出さず、出張から戻ってきたときにはすでに退職していた旨を話す。

「なら今からでも会いに行って戻ってきてほしいって言えばいいんじゃないか?」

「簡単に言うな」

 今度は声に不機嫌さが表れる。しかし岡崎はまったく意に介していない。

「簡単さ。お前が本気で彼女を必要としているなら、なりふりかまわず行動するべきだね」

 できることならそうしたい。けれど早希は結婚するために仕事を辞めた。一度関係をもった俺がどんな顔で会いに行けばいいのか。

 それに早希を必要としているのは仕事に関してだけじゃない。彼女の優秀さだけ買っていると言えたらどんなに楽か。

「ま、決めるのはお前自身だ。後悔するくらいなら好きなようにやったらいい」

 軽く肩を叩かれ、岡崎はアドバイスしてくる。父にも似た内容を告げられた。話題を変える意味で、今度は逆にこちらから岡崎の近況を尋ねる。

「俺? 最近父性が目覚めたんだ。妹の友人が出産してね。その子の成長を見るのが今は生きがいで……」

「お前にそんなものがあったんだな」

 素直な感想を漏らすと岡崎は屈託なく笑った。
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