御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「俺も驚いているよ。めちゃくちゃ可愛いぞ。たぶん、自分の子どもならもっと可愛いんだろうな」

「……俺には縁のない話だな」

 子どもどころか、しばらくは結婚も難しそうだ。てっきり返ってくるのは肯定する言葉だと思った。

 しかし、岡崎は先ほどとは違ってなにかを含んだ笑みを浮かべる。

「そうか?」

 釈然としない岡崎の反応を、このときは深く追及しなかった。あとですべてを知ったときに、岡崎とのやりとりを思い出し複雑な気持ちになったのはいうまでもない。

 そして、その年の十月半ばのある日、見知らぬ電話番号から携帯に着信があった。兄から電話番号を聞いたという彼女は岡崎茜だと名乗った。

「岡崎の妹が俺になんの用事が?」

『ストリボーグの社長の妹としてではなく、あなたの秘書をしていた川上早希の友人の立場でお話ししたいんですけれど』

 久しぶりに聞いた名前に目を見張る。忘れるわけない。彼女の名前を聞いただけでこんなにも心が乱れるなんて我ながら滑稽だ。

『あなたさえよかったら、“彼女”に会いませんか?』

「なぜ?」

 平静を装い尋ね返す。今になって、どうしてこんな話を持ちかけられるのか理解できない。

『早希は今、シングルマザーで娘を育てているんです』

 ところが続けられた言葉に、言葉を失う。すぐに想像したのは、結婚した相手と別れたという事態だ。それを確かめる前に、岡崎の妹は話を進める。
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