御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「久しぶりだな」

 あの夜ぶりの再会。記憶の中の彼女と多少雰囲気が変わっていたが、それでも俺の知っている早希だった。本人を前にすると、抱いていた疑問が次々と口を衝いて出る。

 そして、いざ娘と対面して自然と愛しいという感情が芽生える。初対面なのにもかかわらず、自分に似ているからか、早希との子どもだからか。

 どちらかといえば子どもは苦手だが、このときばかりは素直に可愛いと思えた。

 今までの事情や今後について話す中で、早希と再会したらどうしても伝えようと決めていたことがある。

「川上が望むことは全部叶えてやる」

『離れないでください!……そばにいてほしいんです』

 あのとき、彼女はそう口にした。もう二度と離すつもりはない。

「結婚しよう」

「お断りします」

 ところが間髪を入れずに答えられ、柄にもなく戸惑った。

「……答えるのが早すぎないか?」

 もう少し迷ったり揺れる素振りがあってもいいんじゃないか?

 思わず口にしそうになったが、早希はあくまでも仕事仕様を崩さない。俺に対する態度もだ。

 どうやら俺は自惚れていたらしい。あの夜、わずかでも思いを通わせられたと思ったのは自分だけで、彼女は本当に酔っていて俺に対する気持ちは微塵もなかったのだ。

 だから娘に対しても必要最低限のことしか求めてこない。早希の家庭事情を聞いて納得する反面、引き下がる気持ちはないと強く思う。

「俺に愛される覚悟を決めるなら、もう二度と離さない」

 彼女の気持ちが自分にないのなら、向くようにしてみせる。娘を手放したくない気持ちもあるが、それよりも早希を離したくない。
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