御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「すみませんでした。弱っている社長につけ入るような真似を……」

『謝ってばかりだな、川上は』

 妊娠と出産を彼に話さなかったのはもちろん申し訳なく思っている。それ以前にあの夜の出来事をずっと引きずっていた。

 どちらか一方だけが悪いなんて絶対にないけれど、お酒が入っていたとはいえ私が自制する立場だった。

「謝らなくていい。そんなふうに思っていない」

「で、ですが。私じゃなかったら」

 たとえば日比野さんとだったら、あのときそばにいたのが、妊娠していたのが彼女だったら社長は今頃――。

「そうだ」

 私の意識を彼の低い声が引き戻す。

「早希じゃなかったらああはなっていなかった」

 ざわめく時間さえ与えられず、顔の輪郭に手をかけられ射抜くような眼差しを向けられる。

「どうしても欲しくて抑えられなかった。我を忘れるくらい夢中に求めたのは、あのときだけだ」

 臆面もなく告げられ硬直したのも束の間。全身の血が沸騰したかのように熱くなり羞恥心で卒倒しそうになる。顔を背けることも叶わず耳まで熱を帯びている。

「そ、そうですね。社長、いつもと違って気落ちしていましたから……」

 なにを言っているのか自分でもよくわからない。平静を装いたいのに完全にキャパシティを超えている。脳内の情報処理が追いつかない。

「俺だけの問題か?」

「いいえ! そういうつもりじゃなくて」

 赤かった顔が今度は青くなる。慌ててフォローしようとするとキスで口を塞がれた。
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