御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 今は芽衣の機嫌の良さそうな声を聞きながら家事ができるのが不思議だった。男の人であんなに芽衣が懐くのも珍しい。何度か会っている尊さんでも最初は泣かれるのに。

 お父さんだってわかっているのかな?

 理屈ではなく、なにか感じるものがあるのかもしれない。

 社長の分の夕飯をテーブルに装い声をかける。贈られた花を小さな瓶に活けて真ん中に飾った。

「早希は食べたのか?」

 一人分しか用意されていない食事に社長が尋ねる。

「はい。芽衣に離乳食をあげた後、適当に。私、社長が召し上がっている間に芽衣を寝かしつけてきますね」

 社長にもたれかかっている芽衣の目はかろうじて開いているものの眠たそうだ。慎重に彼から受け取ると足の裏もぽかぽかと温かい。

「あの、食べ終えたらそのまま置いていてください。いつも芽衣を寝かしつけた後でまとめて片付けるので。お帰りになるなら」

「待っていてかまわないか?」

 真剣な声色が説明を遮り、社長と視線がぶつかる。

「早希が起きてくるつもりなら待っていたい。焦らなくてかまわないから」

「ですが」

「仕事の資料に目を通すなり、読みかけの本も持ってきている。することはいくらでもある」

 言いたいことを先回りされ私は苦笑した。忙しい社長を待たせるのもどうかと思ったがそこまで言うのなら無下にはできない。

「わかりました。好きにくつろいでいてください。といってもすぐ隣にいますが」

 アパートの構造上、部屋の広さはそれなりにあっても数はない。なので私はリビングと芽衣のベビースペースをロールスクリーンで仕切っている。
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