御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「食器、ありがとうございます」

「こちらこそご馳走になったな」

「お粗末様でした。たいしたものではありませんが、お口に合ったならよかったです」

 片付けがてらコーヒーも淹れる。こういうときノンカフェインは飲む時間を選ばなくていい。昨日の今日で用意できなかったが、今度は社長のために普通のコーヒーも買っておこう。

 両手にカップを持ち、社長のそばのソファテーブルに近づく。

「よかったらコーヒーどうぞ」

 あ、なんだか働いていたときを思い出す。社長は私を一瞥(いちべつ)すると本を閉じカップを受け取った。続けて私は自分の身の置き所を一瞬、迷う。

 二人掛けのミニソファとはいえ、さすがに社長の隣に座るわけにはいかない。とはいえここで床に座るのは逆に嫌味っぽい? カップをふたつ持っているのにこの場を去るのもどうだろう。

 以前はラグを敷いていたけれど芽衣が伝い歩きをするようになり、滑ると思って片付けてしまったのだ。ひとまず丸型のフロアクッションを使い、床に腰を下ろそうとした。

「早希がこっちを使うべきだ」

 ところが私の行動を読んだ社長が腰を浮かそうとする。

「い、いいえ! 私は大丈夫ですので、社長はそのまま座っていてください」

 社長を床に座らせるわけにはいかない。全力で否定したものの社長の顔は渋いままだ。

「そういうわけにもいかないだろ」

「本当にかまいませんので。私のことを思うならそこに座っていてください!」

 やや大きい声になってしまい、我に返って口をふさぐ。せっかく芽衣を寝かしつけたのに起こすわけにはいかない。
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