今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
彼の足がピタリと止まる。ストレッチャーを迎えに来た別の医師に指示を出すと、走って私のもとに戻ってきてくれた。

「どうした? なにかあったの?」

女の子を怖がらせるといけないと思ったのだろう。西園寺先生はいつもの優しい笑みを浮かべてくれる。隣に膝をついて、私と女の子を交互に見つめた。

彼が来てくれた、もう大丈夫――そう感じた瞬間、瞳にじわっと涙が溢れてくる。

「西園寺先生、事故にあった子どもみたいなんですけど、なにかがおかしい気がするんです……はっきりとはわからないんですけど……目が」

「……目?」

西園寺先生は白衣のポケットからすぐさまペンライトを取り出して、女の子の目の動きを確認する。

「この光、見ていてくれる?」

上下左右に動かすと、今度は女の子の後頭部に触れた。

「杏、この子の名前は?」

「まゆちゃんです」

「ねぇ、まゆちゃん。どこかぶつけたり、痛いところはある?」

西園寺先生ができるだけ優しく尋ねる。

女の子は小さな声で「ない」と答えた。けれど、彼女の顔を真っ直ぐに見つめる西園寺先生の表情は、少しだけ強張っているように見えた。
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