今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「帰ろう杏。こんな男の話など、真に受けるな」

こんな男呼ばわりされた長門さんが、ひくりと頬を引きつらせる。

「……約束と違いますね。ひとりで来いと言ったのに」

「わ、私はなにも……!」

慌てて弁解する私を遮って、彼が前に立つ。

「妻をつけ回すストーカーがいたから、念のため人を雇って尾行してもらっていたんだよ。うちのマンションへ入っていったと報告があったから、急いで帰ってきた」

厭味ったらしくにっこりと笑う悠生さん。テーブルに置かれている写真を手に取ってまじまじと眺めながら、「へぇ」と目を見開いた。

「よく撮れているじゃないか」

「さすがは資産家の息子。交友関係がお派手なようで」

「モテるのは否定しないけれど、杏以外を愛した覚えはないから。浮気者呼ばわりしないで欲しいね」

冗談めかしてビリビリと写真を破く。目が笑っていないあたり、ものすごく怒っているのだと思う。

「行こう、杏」

悠生さんは短く言い放って、私の手を引きカフェを出ようとした。

「杏さん。本当にそれでいいのですか?」

うしろから声をかけられて、つい足を止めてしまったのは、思わせぶりな言い方をされたからだ。
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