今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
まぁ、別に痛くもかゆくもないのだけれど……多少濡れはしたが、乾かせばいいだけの話だし。

むしろ、相手が俺でよかったじゃないか、看護師の女性相手にこんな真似をするようなら、さすがの俺でも怒りを爆発させていた気がする。

これで患者の気が済んでくれるなら、よしとしよう。

しかし、髪からぽたぽた垂れてくる水滴を眺めていたら、さすがに虚しさに襲われた。

俺、こんな仕打ちを受ける必要あったかな……?

そんなことを呑気に考えていると。

――パァン!!!!

大きな音が響いてきて、俺は顔を跳ね上げた。

見れば隣のベッドの患者――交通外傷でリハビリ中の女性だ――が、松葉杖を床に叩きつけて、こちらの患者を睨んでいたのだ。

『甘えてんじゃないわよ!!』

激昂に外を歩いていた看護師すら足を止めて、病室の中を覗き込む。

それから女性の説教が始まった。

『自分の体を治してもらって、その態度はなんなの!?』

『いつまで経ってもよくならないのは、あなたがリハビリから逃げているからでしょ!?』

『やる前からあきらめてるんじゃないわよ! 根性が足りないわね!』

――と、松葉杖の先を向けられた患者は、気がつけば『はい』『すみませんでした』と低姿勢で謝っていた。
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