今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
たまに『助かっただけでも感謝しなさい! 私なんて死にかけたんだからね!?』と私情も入っていたけれど。

『嘆くなら全力で戦ってからにしなさい』

『あなたの人生を救えるのはあなたしかいないんだからね!?』

そんな力強い言葉には、なんだか俺までちゃんとしろと叱られたような気がして、予期せず胸が痛んだ。

『わかったなら、ちゃんと先生にありがとうと言いなさい! あなた、その先生に毎日お世話になってるくせに、お礼のひとつも言ったことないでしょう!?』

気がつけば、廊下の外には人だかりができていた。みんなの視線を受けながら、患者は俺に向けてぽつりとひと言『ありがとうございました』と口にする。

水をかけられたかと思えば、今度は叱られて涙目になっている患者のなだめ役に回るはめになり、俺は『大丈夫だよ』と苦笑いするしかなかった。

この患者からの『ありがとう』には、正直なにも感じなかった。言わされただけで、心の底からの言葉ではないだろう。

だが、隣のベッドの彼女が、俺のことを毎日見てくれていたのかと思うと、少しだけうれしかった。
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