今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
悠生さんは困ったように笑う。おいでと言われて、私は彼の肩にもたれた。

「弱気になって泣いている君もかわいいよ。たまには頑張らないで、俺に甘えて」

「悠生さん……」

気がつけば哺乳瓶の中のミルクはほとんどなくなり、お腹が満腹になったせいか、柚姫は瓶を咥えたまますやすやと眠っていた。

空の瓶をローテーブルの上に置いて、片手で柚姫を抱き支えながら、反対の手を私の肩に伸ばす。

「おいでお姫さま」

「お姫さまは、柚姫じゃないの?」

「俺の本当のお姫さまは杏だよ。柚姫は、いつか誰かのお姫さまになる。それまで、大切に見守ってやらないとね」

私の後頭部に手を回しそっと引き寄せると、唇に甘い甘いキスをもたらす。

涙でしょっぱくなってしまった頬を、彼はぺろりと舐めとった。

「愛してるよ、杏」

いつか悠生さんが教えてくれた、愛の定義。『愛は相手をしあわせにするためのもの』――その意味を、ようやく私はわかるようになった。

「私も。愛してる。悠生さん」

悠生さんのことを愛してる。

柚姫のことも。それから母も、悠生さんのご両親も、私を導いてくれた眞木先生や百合根さんのことも、きっと私はみんなのことを愛しているんだと思う。

「たくさん愛しているわ。私、産まれてきてよかった」

「それでこそ、俺の杏だ」

私の頭を優しく撫でてご褒美をくれる。

彼のものだと言われるのが、なんだかとても心地よかった。


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