ハージェント家の天使

ただ、願うのは

 それから数日後。モニカは1人、ヴィオーラの屋敷にやって来た。
 マキウスとヴィオーラ経由で、リュドに会いたいという手紙を出したところ、今日ならヴィオーラの屋敷にいると返事が来たのだった。

 どうやら、リュドはヴィオーラの屋敷に滞在しながらも、屋敷内の手伝いや、自ら貧民街の巡回や手伝いを買って出てくれているらしく、屋敷を留守にしがちにしているらしい。
 ヴィオーラは食客としてリュドを屋敷に招き入れたから気にしなくていいと言ったらしいが、それを良しとしないリュドが、全て無償でやってくれているとの事だった。
 貧民街については、自分がかつて孤児だったという経験からと、ヴィオーラやマキウス達の改革に賛同しているから、との理由で協力しているらしい。
 他人の好意に甘えてばかりではいられない、というところがリュドらしいと、マキウスから話を聞いたモニカは笑みを浮かべたのだった。

 モニカは屋敷の入り口で出迎えてくれたアガタに連れられて、滞在中、リュドが使用しているという部屋まで案内をしてもらったのだった。
 モニカは深く息を吸い込むと、扉をノックしたのだった。
「お兄ちゃん。モニカです。入ってもいいかな?」
「ああ、入ってくれ」
「失礼します」
 扉を開けると、窓辺にリュドが佇んでいたのだった。
 モニカが部屋に入ると、アガタは扉を閉めて静かに部屋から離れて行ったのだった。

「お兄ちゃん。突然、ごめんね」
「いや、構わない。寧ろ、こっちに出向いてもらってすまない」
 あの後、リュドは髪を切ったようで、背中に流していた長い金色の髪は、肩と胸の間ぐらいの長さになっていた。
 その髪を深緑色の布で1つに結んで、うなじの辺りから垂らしているのだった。

「……髪、切ったんだね」
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