ハージェント家の天使
 それなのに、何故かカーネ族の血しか引かない者よりも、ユマン族の血が入った者の方が魔力が高い事が多い。
 その謎については、今でも王宮魔法使い達の間で、調査を続けているとの事だった。

「じゃあ、もしかしたらニコラも?」
 モニカが顔を輝かせると、マキウスは頷いた。
「ええ。まだ調べてはいませんが、もしかしたら」
 この国では、生まれた子供は必ず魔力値の検査を行う。
 魔力値が高い子供は、王宮魔法使いとしての教育を受けられる。
 反対に魔力値が低い子供は、生まれながらに魔法石を与えられるらしい。
 ただ、ニコラの場合は、生まれた時の状況が普通とは違ったので、まだ検査をしていなかったとの事だった。
「では、その検査の結果次第では、ニコラの今後の教育が変わってくる可能性があるんですね」
「そうですね……。出来ることなら、ニコラには普通に成長して欲しいものです。魔力や魔法に関係ない。ただ、1人の女性として」

 生まれた時に魔力が高くても、成長の過程で魔力が低くくなってしまう事がある。
 そうなった子供は、王宮魔法使いの道から、ただ他より少し魔力が高いだけの子供として扱われるようになる。
 ただ魔力が高くだけとなった子供は、周囲を期待させた分、落胆させる事にもなる。
 当然、他の子供よりも辛い人生を送る事になる。
「王宮魔法使いになれなかった出来損ない」と周囲から詰られる事もあるらしい。

 マキウスは国の勝手な都合で振り回される子供に、ニコラを重ねたのだろう。
「そうならないように、私達がしっかりしましょう。それよりも、ニコラがどんな風に成長するのか楽しみですね」
「ええ、そうですね」
 マキウスの歯切れの悪い返事に、モニカは首を傾げた。

「マキウス様? 何か心配事でもありますか?」
 モニカの言葉に、マキウスは「えっ!?」という顔をしたのだった。
「そんな顔をしていましたか?」
「はい。眉間に皺が寄っていますし、それに……。何だかぼんやりされていて」
 マキウスは眉間を指で揉んだ。どうやら、マキウス自身も気づいていなかったらしい。
 モニカはマキウスに近づくと、バルコニーを掴んでいた手に自分の手を重ねたのだった。
「何を心配されているんですか?」
「モニカ……」
「私で力になれる事はありますか?」
 目を見開いてモニカを見つめていたマキウスは、遠くに視線を移した。
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