ハージェント家の天使
 すぐにマキウスが訂正した。
 女性店員はマキウスに気づくと、目を輝かせた。すると、「失礼しました」と返したのだった。

「それでは、ご夫婦に人気のこちらのアクセサリーはいかがですか?」
 女性店員が勧めてきたのは、木々の様な緑色の宝石がはまったペアの指輪であった。
「これは……?」
「ペリドットの指輪です。ペリドットには、『夫婦の幸福』という石言葉があります」
 マキウスは女性店員からペリドットの指輪を受け取ると、しげしげと眺めたのだった。
「綺麗ですね」
「そうですね。でも、あの……。マキウス様、お値段が……」
 モニカは値札を指差した。
 マキウスは値札が読めなかったが、値札に書かれた値段の数字の数から高価なものだとわかったようだった。

「そうですね……。これは、さすがに」
 2人が言葉を濁したからだろうか、女性店員は「それなら」と、別のアクセサリーを勧めてきたのだった。
「こちらはいかがでしょうか? ペリドットのネックレスになります」
 女性店員が見せてくれたのは、小さなペリドットが金色の土台にはまったネックレスであった。
(わあ……)
「モニカ、どうですか?」
 モニカが目を輝かせたからだろうか。マキウスが訊ねてきたのだった。
「そうですね。いいと思います。でも、ニコラが間違って飲み込みそうで……」
 普段、身につけていたらニコラが何かの拍子に誤飲しそうだとモニカは思った。
 すると、マキウスがため息をついたのだった。
「夢の中ぐらい、ニコラの事は置いておきましょう。モニカ自身はどう思ったんですか?」
「どうって……?」
「欲しいか、欲しくないか。どちらか教えて下さい」
「……欲しいです」
 すると、マキウスはネックレスを手に取ると、女性店員に渡したのだった。

「これを購入します」
 女性店員は受け取ると、「ありがとうございます」とレジに向かって行ったのだった。
 女性店員に続こうとするマキウスの腕をモニカは引いた。
「マキウス様、あの、お金は……?」
「持っています」
 マキウスはズボンのポケットから、財布を取り出したのだった。
「先程、モニカが支払いをしている時に、持っている事に気付いたんです」
「勿論、中身も確認済みです」と、マキウスは答えると、レジに向かった。
 モニカは、その後に続く事しか出来なかったのだった。

 会計を済ませ、袋に入れようとした店員にマキウスは声を掛けた。
「こちらのアクセサリーはすぐにつけられますか?」
「はい。では、値札をお取りしますね」
 店員は手早くネックレスの値札を取ると、マキウスに渡してきた。
 マキウスはネックレスの留め具を外すと、モニカの首に掛けたのだった。
「貴方によく似合っていますよ」
「あ、ありがとうございます」
 モニカが耳まで真っ赤になりながら礼を述べると、マキウスは微笑んだのだった。

「ありがとうございました」
 店員に見送られた2人は店を出ると、アーケードに戻った。
 すると、マキウスは空を見上げたのだった。
「ああ、そろそろ朝ですね」
「え? わかるんですか」
「まあ、なんとなくではありますが」

 マキウスはモニカの手を握った。
 今度は指を絡めた、恋人繋ぎであった。

「楽しかったですか?」
「はい。楽しかったです。マキウス様は?」
 微笑むモニカに、マキウスは神妙に頷いた。
「私もです。見るもの、触れるもの、全てが新しくて、それに」
 マキウスはモニカのネックレスに触れた。
「また、『貴方』を知る事が出来て、良かったです」
「マキウス様……!」
「今度は夢ではなく、実際に出掛けたいものです」
「その時を楽しみにしていますね!」
 満足そうな顔をしているマキウスを眺めているところで、モニカは夢から覚めたのだった。

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