パラダイス、虹を見て。
ヒョウさんと、アラレさんが恋人同士。
それを知って、気持ち悪いだなんていう感情は少しも湧かなかった。
でも、じゃあこの感情は何よって訊かれたら。
答えられない。
暫くその場に立ち尽くした後。
アラレさんがそのままにしておいた機材を片付け。
私も屋敷に戻ることにした。
…だけど。
どうすれば、いい?
屋敷の前で、入るのが怖くなった。
アラレさんに拒絶された。
ヒョウさんに今日の出来事を言うに違いない・・・
扉の前で、入りたくないという気持ちが強くなって。
庭園のほうへ歩く。
泣きたい気持ちは強かったけど。
何に対して私は泣きたいのか、わからない。
ぼんやり、庭園を歩いていると。
見知らぬ男の人が、じっと花を見て立っていた。
小柄な男性だった。
背は小さく、茶色い髪は両サイド刈り上げられている。
丸顔で優しそうな雰囲気を出している。
ここまでくると、どうしてこの屋敷にはイケメンしかいないのだろうかと突っ込みたくなるくらい。
目の前にいる男性もイケメンだった。
ああ、アラレさんが言っていたサブキャラの人だなというのがすぐにわかった。
ぼーと何をするでもなく。
ピンク色の花を眺め続ける男性。
「最初、ヒョウが来たのかと思った」
こっちを見るわけでもなく、男性が言った。
その口調は、この屋敷の誰にも似ていなくて。
優しくてふんわりとした言い方だった。
瞬時によぎったのが、ヒサメさんのキツい口調。
目の前にいる人と正反対。
「その格好、よく似合ってるね。お姫様」
こっちを向いて、男性が微笑んだ。
すべてを包み込むような優しい表情だった。
少年っぽい顔だけど、美形で睫毛が長く、目元は女性らしくもある。
近寄ってもいいのかなと思って。
男性の側に寄ると。
白いシャツの裾部分に赤や黄色いシミが付いている。
「あの、画家さんなんですか?」
質問すると、男性は目をそらして。
また花を眺め始めた。
「違うよ」
服についた絵の具。
何をするでもなく、じっと景色を眺める横顔。
見た感じからして、画家っぽいなあと思ったんだけど・・・
黙っていると、男性がチラリとこっちを見て。
「描くだけじゃなくて、彫ったり壊したり、作ったり壊したりしているから」
何故、「壊す」という言葉を二度使ったのかはわからないけど。
芸術家ということだろうか。
ビックリするくらい、この男性の側は居心地がよかった。
「僕の名前は、モヤ」
「もや?」
「それっぽい名前でしょ。僕、あんまりこの屋敷にいないけど。よろしくね。お姫様」
「…お姫様じゃないです。カスミです」
「どっちも似たようなものでしょ」
いや、似てませんけど!
と、ぐっと口から出てきそうになったけど。
何故か、言えなかった。
ぼんやりとモヤさんの視線の先を見る。
色とりどりの花が咲いている。
蝶が舞っている。
「さっき、アラレと喧嘩してたでしょ」
暫く黙ったかと思えば、「ふふふ」と笑いながらモヤさんが言った。
「見てたんですか?」
「見てたっていうか、見物してたというか・・・」
そう言うと、モヤさんはゆっくりと歩き出した。
「ショックだった? お兄さんの恋人があんな奴で」
「あんな奴だなんて・・・そんな」
どう、言っていいのかわからなかった。
数歩移動したと思えば。
モヤさんはまた、じっと草花を眺めている。
私が喋るのを、ゆっくりと待ってくれている。
そんなふうに感じた。
「そもそも、私。まだヒョウさんのことを兄だって思えないんです」
「…それは、ヒョウが聴いたら悲しむだろうね」
のびのびとした口調でモヤさんが言う。
「ずっと、お姫様のこと探していたからね」
それを知って、気持ち悪いだなんていう感情は少しも湧かなかった。
でも、じゃあこの感情は何よって訊かれたら。
答えられない。
暫くその場に立ち尽くした後。
アラレさんがそのままにしておいた機材を片付け。
私も屋敷に戻ることにした。
…だけど。
どうすれば、いい?
屋敷の前で、入るのが怖くなった。
アラレさんに拒絶された。
ヒョウさんに今日の出来事を言うに違いない・・・
扉の前で、入りたくないという気持ちが強くなって。
庭園のほうへ歩く。
泣きたい気持ちは強かったけど。
何に対して私は泣きたいのか、わからない。
ぼんやり、庭園を歩いていると。
見知らぬ男の人が、じっと花を見て立っていた。
小柄な男性だった。
背は小さく、茶色い髪は両サイド刈り上げられている。
丸顔で優しそうな雰囲気を出している。
ここまでくると、どうしてこの屋敷にはイケメンしかいないのだろうかと突っ込みたくなるくらい。
目の前にいる男性もイケメンだった。
ああ、アラレさんが言っていたサブキャラの人だなというのがすぐにわかった。
ぼーと何をするでもなく。
ピンク色の花を眺め続ける男性。
「最初、ヒョウが来たのかと思った」
こっちを見るわけでもなく、男性が言った。
その口調は、この屋敷の誰にも似ていなくて。
優しくてふんわりとした言い方だった。
瞬時によぎったのが、ヒサメさんのキツい口調。
目の前にいる人と正反対。
「その格好、よく似合ってるね。お姫様」
こっちを向いて、男性が微笑んだ。
すべてを包み込むような優しい表情だった。
少年っぽい顔だけど、美形で睫毛が長く、目元は女性らしくもある。
近寄ってもいいのかなと思って。
男性の側に寄ると。
白いシャツの裾部分に赤や黄色いシミが付いている。
「あの、画家さんなんですか?」
質問すると、男性は目をそらして。
また花を眺め始めた。
「違うよ」
服についた絵の具。
何をするでもなく、じっと景色を眺める横顔。
見た感じからして、画家っぽいなあと思ったんだけど・・・
黙っていると、男性がチラリとこっちを見て。
「描くだけじゃなくて、彫ったり壊したり、作ったり壊したりしているから」
何故、「壊す」という言葉を二度使ったのかはわからないけど。
芸術家ということだろうか。
ビックリするくらい、この男性の側は居心地がよかった。
「僕の名前は、モヤ」
「もや?」
「それっぽい名前でしょ。僕、あんまりこの屋敷にいないけど。よろしくね。お姫様」
「…お姫様じゃないです。カスミです」
「どっちも似たようなものでしょ」
いや、似てませんけど!
と、ぐっと口から出てきそうになったけど。
何故か、言えなかった。
ぼんやりとモヤさんの視線の先を見る。
色とりどりの花が咲いている。
蝶が舞っている。
「さっき、アラレと喧嘩してたでしょ」
暫く黙ったかと思えば、「ふふふ」と笑いながらモヤさんが言った。
「見てたんですか?」
「見てたっていうか、見物してたというか・・・」
そう言うと、モヤさんはゆっくりと歩き出した。
「ショックだった? お兄さんの恋人があんな奴で」
「あんな奴だなんて・・・そんな」
どう、言っていいのかわからなかった。
数歩移動したと思えば。
モヤさんはまた、じっと草花を眺めている。
私が喋るのを、ゆっくりと待ってくれている。
そんなふうに感じた。
「そもそも、私。まだヒョウさんのことを兄だって思えないんです」
「…それは、ヒョウが聴いたら悲しむだろうね」
のびのびとした口調でモヤさんが言う。
「ずっと、お姫様のこと探していたからね」