パラダイス、虹を見て。
 秘密の館に来てから。
 フツーというのがわからなくなる。

 あまりにも世間を知らなすぎるせいか。
 私があまりにも勉強嫌いのせいか。
 何で、こんな不思議な人達ばかり集まるんだろうなあと思う。

 結婚していた頃は、誰かに質問するのはNGだらけだった。
「おまえには知る必要のないことだ」
 特に二番目の夫。
 怒鳴られてばかりだったなあ。
 身分が高いほど、秘密が多くて。
 妻の自分ですら知らないことが多い。

 ここでも、きっと質問することも、
 知るということもNGなのだろうなあ。

「自分を受け入れられないって、辛くないですかねえ」
 寝る前に喋るのはユキさんだ。
 最近、寝る前の話し相手は、ユキさんが多い。
 ヒサメさんとは気まずいから、調度よかったのかもしれない。

「サクラのこと言ってる?」
「…やっぱり、わかりますか」
 お見通しのという顔でユキさんが言った。
 今夜は、白っぽいシャツに黒っぽいズボンとラフな格好のユキさん。
「私も、自分のことゴミだって思ってた時がありました」
「……」
 毛布を掴む。
「それでも、ヒョウさんに救ってもらって、ここの人達と喋っていくうちに、自分のことゴミって考えなくなりました」
「そう・・・」
「自分のことを嫌いな時間って苦しいですよね」
 思い出した過去に吐き気を覚える。
 だが、そんな苦しい顔をユキさんの前で見せるわけにもいかない。
 ユキさんは腕を組んだ。
「カスミさんは、優しいね」
 急にユキさんが褒めたので、私は驚いて「えっ」と声をあげた。
「みんな、自分のことでいっぱいいっぱいでさ。他人のことなんて思いやれないっていうのに。カスミさんは周りの人間を思いやっているから」
「え、そんなことないですよ。私、結構自己中心的な人間ですよ」
 慌てふためいて大声で言うと。
 アハハハと声を出してユキさんが笑った。
「サクラのこと、ちゃんと考えてくれてありがとう」
「え・・・何でユキさんが感謝するんですか」
 ユキさんは笑い終えると。
 急に立ち上がった。
「悩んでいても仕方ないっしょ。今からサクラ連れてくるから。今夜は語り合いなよ」
「え!?」
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