パラダイス、虹を見て。
 ピーさんは自信なさげだったけど。
 出来上がりは最高だった。
 可愛く切ってもらえたことに満足する。

 ピーさんに別れを告げて。
 モヤさんおすすめのレストランで昼食をとる。
 こういった穏やかな時間って。
 本当に幸せで温かいなあと思ってしまう。

 散髪代、そして昼食代。
 すべてモヤさんが奢ってくれた。
 申し訳ないなと思いながらも。
 考えてみると、私。
 お金持ってないじゃんと自分に突っ込んだ。
「ありがとうございます。モヤさん」
 レストランを出てお礼を言う。
 短髪だと目立つからという理由で頭に紺色のスカーフを巻く。
 モヤさんはニヤニヤと笑いながら
「楽しいね。女の子とデートできるって」
 と言った。
「モヤさんカッコイイから、いつだって女の子とデートできるじゃないですか」
「僕は面倒臭がりな男だから無理だよ」
 そう言って謙遜するけど。
 モヤさんはイケメンである。
 あの秘密の館に住む住人、全員がイケメンだけど。
 誰よりも謎めいていて。
 優しくて、落ち着く人だなと思う。

「すいません。モヤさんですか?」
 モヤさんと歩き始めようとしたところで。
 3人組の男性に声をかけられる。
 いかにもチンピラっぽい、
 ガラの悪い人達だ。
「人違いです」
 モヤさんは不機嫌そうな顔で私の手を引っ張った。

「いや、どう見ても。モヤだろうが」
 リーダー格と思われる背の高い男性がモヤさんの肩を叩く。
「世界最強と言われる男が、こんなところでデートですかあ?」
 世界最強?
 なんだその言葉は。
 モヤさんを見ると。
 モヤさんは完全に怒っていた。
「ヒカリ、10秒目を潰したら、左方向に走れ」
「え、目をつぶす!?」
「いいから、目を閉じて」
 モヤさんは私を突き飛ばす。
 私は目をこれでもかというくらい、力を込めて閉じて。
 10秒数える。
「1・・・2・・・・5・・・・・・10」
 恐る恐る目を開けて「え…」と思いながらも走り出す。
「よし、退散!」
 モヤさんはすぐに私の隣に追いついて走り始めた。
 モヤさんにちょっかいを出してきたチンピラ3人組は。
 地面で倒れ込んでいた。
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