パラダイス、虹を見て。
「宮廷画家なんですか…」
 今日一日、モヤさんの知らない素顔を沢山知ってしまった。
 モヤさんは兄であるヒョウさんの友達で。
 芸術家で国中を旅していて。
 一ヵ月旅をしたら秘密の館へ戻って創作活動をする。
 それしか知らなかった。

 世界最強?
 宮廷画家?
 どういうことなのか。
 隣に立っている男がどれだけ偉い人間なのか測り知れない。

 整えられた庭園は誰の姿もない。
「宮殿って、王様が住んでいるところですよね?」
 あまりにも非現実的な場所に脅える。
「そうそう。あ、でも。流石に王様に会うことはできないよ」
 ふふふと笑い飛ばすモヤさんに。
 もう、どうしていいのかわからない。
 こんな簡単に宮殿に入れるものなのだろうか。

 かつての夫たちですら宮殿には入れなかったという。
 ティルレット王国での王族の秘密。
 選ばれた者でしか近寄ることが出来ない場所。

 しばらく歩くと。
 白い建物が見えた。
「ここが、僕のアトリエ」
 扉をモヤさんが開けると。
 独特の嗅いだことのない匂いがした。
「基本的に2階で作業して1階は気に入った作品を飾ってるんだ」
 壁には所狭しと絵が飾ってあり、
 通路には石像が置いてある。
「恥ずかしいから、あんまりジロジロ見ないでね」
 モヤさんの足が速くなるので。
 置いていかれないように小走りでモヤさんの後ろについていく。
 正面で行き止まりと思えば。
 モヤさんが左に曲がって足を止めた。
「この絵だよ」
 モヤさんが指さした絵を見て。
 ギュンと胸がしめつけられる。

 ウエディングドレスを着た女性と。
 タキシード姿のヒサメさんの姿が描かれていた。
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