花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
『あ、葵くん?』
体中の毛が一気に逆立つ。
背中にぞわりと一筋の電撃が走って、呼吸の仕方を一瞬忘れた。
戸惑いと喜び。驚きと疑い。その声を聴いただけで色々な感情がごちゃ混ぜになる。
ずっと俺の頭を離れてくれなかった、花の持ち主。
凛とした声が少しだけ息を吸って、言葉を紡ぐ。
『ごめんね、急に連絡絶っちゃって』
昨日の些細な失態を謝るような軽い感じで謝罪をする声に、体中の力が抜ける。
俺は何も言えなくて、ただスマホを落とさないように持っていることで必死だった。
何かを言いたげな声。「あー」だか「うーん」だかわからない声をあげたあと、彼女は言った。
『今から……会えるかな?』
「……は?」
現在昼の1時。今から彼女がこちらへ向かってくるといったら、着くのは夕方の日も落ちたころになってしまう。
「いくらなんでもそれは……」
『いま私、バス停にいるんだけど』
告げられた場所の名前は、俺の住んでいるところの最寄りのバス停。
俺は、唯一彼女のこういうところが嫌いだ。こっちの事情をガン無視して、心の準備をする暇を与えてくれない。
「俺が無理って言ったらどうするつもりだったの」
『大人しくこのまま帰ろうかなって思ってたよ』
さて、どうします? と楽しそうな彼女の声が耳を刺激する。
握っていたシャーペンを机にたたきつけて、赤いボタンを押した。ブツリと切れた通話。部屋を飛び出して、転がり落ちるように階段を下りる。