花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「葵ちゃん! そんな急いでどうしたの!!」
「ちょっと出てくる! たぶん日が落ちる頃には帰ってくると思うからー!」
玄関の扉から半身を家の中に残してそれだけ言い、バシリと扉を閉めた。
適当に履いた靴はおとうさんのサンダルだった。
サイズが合うはずもなく、脚を上げるたびに飛んでいきそうになる。
必死につま先に力を入れておかなきゃいけないのがうざったくて、ついにサンダルを脱いでしまった。
太陽が照っているせいで空気はぬくもりを孕んでいるけれど、アスファルトは少しひんやりしている。
走って。
走って。
走って。
とうの昔に息は切れていた。
駅までもう少し。
新幹線に乗って、町の大きな駅から電車で1時間。それからバスに乗って30分。
思い立ってすぐに来ることのできる距離じゃない。
足の裏が痛くなってきたときだった。
「っ……」
無人駅のベンチにもたれかかって座っているひとりの少女。
足をぶらつかせて、退屈そうに何かを待っているようだ。
白いワンピースに麦わら帽子。荷物はひとつもないのか、ただ小さなショルダーバッグをかけているだけだ。
「っ……ぁ……」