昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
「ええ。気をつけるわね、凛」
 この顔、本当にわかっているか怪しい。
 使用人が琴さんだけになった時からうちの家計簿は私がつけているのだが、ずっと赤字が続いている。大きな収入がなければ、いずれこの屋敷も手放さなければならなくなるだろう。
 ハーッと溜め息をつく私を見て、弟が話題を変えた。
「おっ、このトマトのサラダ美味しい」
 弟に褒められて嬉しくなり、とびきりの笑顔で返した。
「今日うちでとれた野菜なの」
「ああ。いつの間にか育ってたよね。……ねえ、父上はまだ寝てるの? 朝起きたら廊下にあった伊万里焼の花瓶がなくなってたけど、また酒場に行った?」
 弟は箸を止め、少し表情を暗くして私に尋ねる。
「うん。また質屋に売りに行って、その後競馬して負けてお酒を飲みに行ったんだと思うわ」
 父は銀行に融資した資金を取り戻そうとギャンブルに夢中になっている。
 弟と私がやめるように言っても聞かないのだ。
「父上はどうしようもないな」
 いつも穏やかな弟が吐き捨てるように言うので、優しく宥めた。
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