昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
恋にうつつを抜かしている暇はない。
 俺の手には青山家だけではない、青山系列の会社に勤務している何百万人もの生活がかかっている。
 父のように愛した女のために無責任に青山を捨てることなど許されないのだ。
「幼少期に植え付けられた考えは、そう簡単には変えられない」
 自虐的に返す俺に、彼は真摯な目で告げた。
「我々が全身全霊をかけてあなたと凛さまをお守りしますよ」
 彼の瞳に揺らぎはない。
「それは頼もしいが、俺は結婚しない」
改めて伊織に宣言するが、彼は含み笑いをする。
「言ってることと、やってることが逆ですよ」
 言われなくても、そんなことはわかっている。
 俺は凛に惹かれている。
「お前と議論していたら夜が明ける。車の準備を頼む」
 表情を変えずにそう命じれば、もう伊織は凛のことには触れず、「はい」と返事をしてこの場から離れる。
俺も凛を抱いたまま椅子から立ち上がり、彼が用意した車に彼女を乗せた。
 目白にある保科邸に凛を送っていくと、応対したのは凛が琴さんと呼んでいた女中と彼女の弟だった。
< 128 / 260 >

この作品をシェア

pagetop