昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 森田さんが運転席にいる伊織さんに指示を出す。
 履物屋って、ひょっとして私の下駄を気にして?
「あのう、お心遣いはとても有り難いのですが、私は今持ち合わせがなくて」
 今だけでなく、ずっと下駄を買うお金なんてないのだけど。
 遠回しに買えないと伝えるも、森田さんに選択を迫られた。
「じゃあ、選ばせてあげよう。俺に抱きかかえられて家まで帰るのと、普通に下駄を履いて歩いて帰るのとどっちがいい?」
 その目がおもしろそうに笑って見えるのは気のせいだろうか。
「裸足で家に帰るというのは……?」
 彼の顔色を窺いながら尋ねるが、無表情でなにを考えているのか読めない。
「その選択肢はないな。ガラスの破片で足を怪我するかもしれないから許可できない。時間切れということで履物屋に行くから」
 許可できないって学校の先生みたいな物言いじゃないですか。
 反論しても無駄だとこの人は言っているようだ。
「本当にお金がないんです。当分はこの下駄を直して使うしか」
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