昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 私のボロボロの下駄を見れば、裕福な暮らしをしていないことはすぐにわかったはず。恥を忍んで自分の懐事情を打ち明けるが、彼は考えを変えない。
「保科さんはなにも心配することはない」
「でも……」
 そんなやり取りをするうちにとある履物屋の前で車が停止した。
 それは東京で有名な老舗の履物屋。
また森田さんが私を抱き上げ、車を降りる。
「私歩けますけど……」
 一応そんな主張をしてみるが、彼は「いいから」と相手にしてくれない。
 困惑する私を見て伊織さんはクスッと笑った。
「彼には誰も逆らえませんよ」
 店はもう閉まるところだったのだけれど、伊織さんが「私に任せてください」と言って、店の主人となにか話をすると、笑顔で迎えられた。
 森田さんがこの店の上客なのか、店の主人は上等そうな下駄を出してくる。
 今履いている下駄のこの紅色の花緒がとても素敵。
履き心地も花緒の色もよくて思わず欲しくなったが、今の自分の立場を思い出して店主に尋ねた。
「もう少し地味な感じのものってありますか?」
< 32 / 260 >

この作品をシェア

pagetop