昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 暗にもっと安いものはないか確認する。
 昔、祖母にもらった着物を質屋に持っていけば、安価な下駄を買えるくらいにはなるだろう。
「いや、今履いているのをいただいていく」
森田さんが店の主人にそう伝えたのでギョッとした。
「森田さん、ちょっと待って」
 慌てて止めたが、さらに彼がとんでもない発言をする。
「迷っているのか? だったら、試し履きしたのを全部もらう」
 全部って正気なの?
 姉のようなこと言わないでほしい。この人絶対にいいとこのお坊ちゃんだよ。
 森田という名字に聞き覚えはないけれど、きっと名家に違いない。
「なんでそうなるんですか! 一足でも私のお給料の半分は飛んでいくんです。そんな無駄遣いはできません!」
 私の必死の説明を聞いても彼は考えを変えない。
「ここで揉める時間の方がもったいない。全部もら……」
 彼に先手を打たれる前にはっきりと言った。
「今履いている紅色の花緒のでお願いします!」
 なぜ下駄を買うのにこんなに息切れするのだろう。
 私の返答を聞いて彼はフッと笑った。
 結局私は森田さんにいいように操られたのだ。
< 33 / 260 >

この作品をシェア

pagetop