昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 しかも、この人、私が今履いているのを気に入ったこともわかっている。
 なんだか悔しい。
「今履いているのでいいそうだ。伊織、あと頼む」
 森田さんは店の主人にそう言うと、伊織さんに目を向けた。
「すみません。お金は後日払いますから」
 私が両手を合わせて森田さんに伝えたら、彼は素っ気なく返した。
「必要ない」
 会社の同僚にこんな高価なものを買ってもらうわけにはいかない。
「いえ、絶対に払います」
 森田さんを見据えて主張すると、彼は少しやれやれといった様子で提案した。
「頑固だな。それなら明日から俺の分も弁当を作ってきてくれないか?」
 彼の提案にしばし考える。
 正直、すぐにお金を払えるか自信がなかった。お弁当を作る方が私は助かる。
「それはお安い御用ですけど、本当にそんなのでいいんですか?」
「ああ。俺もその方が助かる」
 仕事している時と変わらない淡々とした口調だけど、この場を収めるだけではなく、心から言ってくれているような気がした。
「では、明日からお弁当作ってきますね」
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