昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
蚊の鳴くような声で心情を訴えるも、彼にはやはり通じなかった。
「だったら、目を閉じていることだ」
 抑揚のない声で言われたが、その目は笑っているように見える。
 結局そのまま車に乗せられ、目白にある自宅まで送ってもらった。
 目白には華族の屋敷が多く、私の家も赤いレンガの塀に囲まれた二階建ての洋館で敷地も千二百平方メートルあって見た目はそれなりに豪華に見える。
「送っていただいてありがとうございました。それに下駄も」
 自宅の玄関前で車を停めてもらい、森田さんたちに礼を言った。
 てっきり家のことでなにか言われると思ったのだが、彼はもう当然のように無言で私を抱き上げて、玄関まで運ぶ。
 すると、車の音に気付いたのか弟が玄関先に現れた。
「凛姉さん、どうしたの?」
 森田さんに抱き上げられた私を見て弟が目を丸くする。
「会社帰りに引ったくりに遭って、足の指を怪我しちゃって……会社の人が送ってくれたの」
 苦笑いしながら弟に説明すると、森田さんに目を向けた。
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