昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
年は七十歳くらい。顎に白い髭をたくわえた人のよさそうなおじいさんだ。
 そのおじいさんがこちらを見て、目が合った。初めて会ったのに目を細めて微笑むおじいさん。
 私ではなく違う人を見ていたのかな。
「優しそうなおじいさんですね」
 私の感想を聞いて森田さんは「保科さんは大物になれるかもね」と謎めいた言葉を呟きながら傘を閉じる。
 そのおじいさんの正体を知ったのは仕事場の席に着いてから。
「凛、おはよう。今日はうちの総帥が来てるわね。なにかあるのかしら」
 春子さんが出勤していつものようににこやかに話しかけてきたが、彼女の話題についていけずキョトンとする。
「おはよう、春子さん。うちの総帥って?」
 説明を求めると、わかりやすく言い直してくれた。
「青山財閥で一番偉い人。青山清鷹よ」
「ええ? あの白い髭のおじいさんが青山財閥の総帥なの?」
 青山財閥の展開する事業は貿易、造船、鉄道、銀行等多岐に渡っていて、政府との繋がりも強く、日本経済を動かしているといっていい。
 そのトップに君臨しているのがあのおじいさんなの?
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