【電子書籍化】悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!
「アレン。妹はまだ幼いんだ。そういった話は俺を通してもらおうか」

「幼くとも俺はイリーナに話している。お兄様には引っ込んでいてもらおうか」

「なんだと!?」

 喧嘩に発展するのは困るとイリーナは思い切って声を上げた。

「そうですアレン様。幼女に婚約者は務まらないのです!」

(私のことは綺麗さっぱり忘れて遠慮なく幸せになって下さい応援申し上げております!)

 ――と、イリーナは眼差しで訴えた。アレンはその眼差しに頷いて見せる。

(伝わった!?)

「遠慮することはないよイリーナ。俺は君が元に戻れるまで、いつまでも待ち続けよう。なに、あと十年ほどすれば元の年頃に戻れるだろう」

(違うっ!)

 元に戻れなければ成長するまで待つと言うのか、この人は。

「さあイリーナ、答えてくれ。君は俺のことをどう思っている?」

「あ、う……アレン様は、高いところにある本を取ってくれる優しい人で」

「それで?」

「それで!?」

 どうしても答えを知りたいらしい。ならば中途半端なことを言ってはいけない。ここはしっかりと、びしっと決めておかなければ!

「アレン様は……私の人生において最も関わりたくない人です!」

 平静を心がけているようではあるが、今度はアレンの口元が引きつるのがわかった。オニキスは堪え切れない笑いを押さえるのに必死だ。
 王族の矜持でなんとか立て直したアレンは強引に唇を動かそうとする。

「一番をいただけて光栄かな」

 その姿があまりに哀れだったのか、オニキスはアレンの肩を叩いてやった。うるさいよと払い落としていたけれど。

(というかこの人、なんで帰らないのー!)

 このままでは両親が帰宅して仲良く一緒にご夕食をの流れだ。両親だって王子殿下の訪問を悪く思うはずがない。元々オニキスとは学友で親交もある。ここは幼女ならではの機転をきかせるしかないだろう。イリーナはわざと大げさにあくびをして見せた。

「眠いのか、イリーナ?」

 思った通り。兄はわかりやすく動いてくれるので助かる。

「うん」

「そうかそうか。俺が部屋へ運んでやろうな」

「お兄様の手を煩わせるのは忍びない。ここは俺に任せておけ」

「何を言う。お前こそ他人だろう! 普段は遠慮なく荷物を運ばせるくせに、これは兄である俺の役目だ」

「俺は彼女の婚約者だ」

「まだ候補だろうが!」

 バチバチと火花を散らす男たちの横でイリーナは立ち上がり一人で歩いて行く。

「イリーナ、一人で行けま~す」

 そっとイリーナは部屋の扉を閉め、面倒な二人に蓋をするのだった。
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