【電子書籍化】悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!
 しかし翌日、アレンは何食わぬ顔でイリーナの前に現れた。今度は堂々と、タバサに案内されてイリーナの部屋を訪れたのである。

「タバサ! 私は誰にも会わないと言ったでしょう!」

「申し訳ありませんお嬢様。わたくしのような一介の侍女風情が王子殿下に逆らうことなどできるはずがないのです」

 無表情のタバサは僅かにアレンを見据えて弁解する。昨日のメイドは必死にアレンを食い止めてくれたというのに腹心の侍女であるタバサは早くも諦めモードだ。

「ご苦労だったね。タバサ」

「いえ、わたくしは当然のことをしたまでです」

 それどころかアレンに労われ恐縮している。

「昨日はわたくしの教育が行き届かないばかりに殿下の足を止めさせてしまい、まことに申し訳ございませんでした」

「構わないよ。突然訪問した俺が悪いからね」

「寛大なお言葉、痛み入ります」

「それじゃあタバサ、お茶の用意を頼めるかな。手土産のチョコレートも出してあげてね」

「御意」

 まるで自宅にいるような態度である。しかしタバサはアレンの命を受け素早く膝をついた。それは完全に仕えるべき主を前にした姿だ。
 熟練を感じさせるやりとり。違和感のないスムーズな会話。とても信じられることではあるが、イリーナにはある懸念が浮かんでいた。

「タバサ……貴女、まさか……」

 あまりの怖ろしさに全てを言葉にすることは叶わなかった。しかしタバサには通じただろう。イリーナから顔を背けたことが答えだった。腹心の侍女はとっくにアレンに懐柔されていたのである。
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