夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
「胡桃が泣くようなことじゃない」

わかってる。涙を流すべき人は椿だって。なのに肝心の本人は泣くこともなく、ただ優しい笑みを浮かべている。端から見たらどっちが辛い思いをしているのかわからない状況だ。

「だって誰にも救われない中で九年、生きてきたんでしょ?悲しすぎるよ」

一度溢れだした涙は止まらない。次々に雫が頬を伝っていく。椿はそれを察したのか私の頭を壊れ物を触るかのように撫でてきた。

私はまだ弱虫なんだ。もうやめようと決意して、行動もしたのにせっかく生まれた勇気はすぐに萎んでゆく。まるで開いて閉じてを繰り返している花びらのようだ。

私はもう、誰も失いたくない。辛い思いをさせたくない。仁菜と同じように自殺させたくない。罪滅ぼしのようでバカにされてもいい。後悔を引きずるようなことはしたくないから。

私は小指で涙を拭い、気合いを入れるように両頬をバチンと叩く。それに動揺したように椿は首を傾げた。

一つ息を吸う仕草をする。それから意を決して口を開いた。

「東山椿。今からあなたを誘拐していいですか?」

何を突拍子もないことを言っているのだろうか。言うことすらも決めてなかったはずなのに。

よくよく考えてみれば、親は息子が連れ去られたと知ったらすぐに探しにくるだろう。従って警察である椿の父も動き出すだろう。

どんな結末になるかは実行しようとしている私にもわからないが、我ながら世間に気づかせるためには合理的な判断だと思う。
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