やわらかな檻
 南門まで続く石畳の道は桃色に染められ、空の青との対比が美しい。そして、その先には無駄に長い、黒い車。

 高校に入ってからずっと、繰り返されている光景だ。


「小夜さん、撫子さん。掃除はきちんとしましょうね」
「はぁい」


 白い割烹着を着た女の先生が、柔らかな声音で言う。

 撫子は軽く肩を竦め、ちろりと舌を出した。

 周りの生徒は苦笑している。かくいう先生も。皆、いつものことだと納得していた。


 先生も、ここでは優しく宥める程度。

 所詮、掃除なんて今だけの、子供時代の一つの娯楽でしかない。


「小夜、やろうか」
「……ええ、そうしましょう」


 けれど、注意されて気付いた。

 いつの間にか箒を掃く手を止め、外ばかりを見つめていたことを。
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