やわらかな檻
「小夜がいれば特に……」

「もう! 言わなきゃ冷蔵庫の残りのケーキ、全部食べちゃうわよ」

 本音も冗談と受け止めたようだった。彼女としては僕に何か目に見える物をあげたいのだろうけれど、残念ながら、期待に輝く瞳に応えられるような願いは無かった。

「……では、どうしようか」


 子供の高い体温が隣にある。ぽん、ぽん、と緩慢な間隔で柔らかな横腹を叩きながら、噛み殺しきれない欠伸が口の端から漏れた。寝かしつける側が眠くなってきている。

 問題は、完全に解決したのではない。

 考え方やこの家での過ごし方について、いくら互いに歩み寄っても、僕と彼女の生きるべき道の違いがいつか決定的な別れを生むだろう。

 その時、自分がどうなるか分からない。無理と知りつつも彼女に執着するのかもしれないし、傷ついて別れを決めて、今のこの判断が間違いだったと思うのかもしれない。

 ただ、それでも、彼女が僕を思ってくれる限り、この瞬間の幸福を大切にしたいと思った。


「少し寝たら……あのクリスマスツリーを下さいと、二人でお願いに行きましょう」
 

 今なら兄に協力を求めて頭を下げても良い。当主達が帰ってこないうちに彼女の家に謝罪に行って、許されればそれから、タイムリミットまで街に出てクリスマス気分を味わっても良い。あまり高くない贈物なら買えるだろう。
 それから……。


 隙間から見える宵闇はどことなく白ばんで、夜明けが近いと感じさせる。襖から入ってきた冷気は暖房が点いたままの暖かな和室を、小さく、しかし確かに掻き混ぜて丁度良く均していく。

 幸せに微睡みながら目を閉じた。
 もう、息苦しさは感じなかった。


【了】
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