やわらかな檻
 口付けされそうなほど、吐息がかかってきそうなほどだ。顔と顔の距離が近い。

 ふわり、風に乗せられて桜の香りがした。


「もし、私が他の人と付き合うって言ったら」


 言い切る前に、慧はその綺麗な形の唇を歪める。


「――相手には別の世界に行って貰って、貴女は一生監禁でしょうか?」


 重ねて告げられた言葉に、表情が凍りついた。

 別の世界、はいわゆるあっちの世界のことだろうか。
 天上の。


 そして、今でも軟禁状態なのに。

 慧はこれ以上私を束縛してどうするつもりなのだろう。 
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