やわらかな檻
「どーしたの、ケイお姉ちゃん好き?」


 私の動揺にも気付かず、彼女は幼子を抱え直してにこやかに笑う。

 彼女は慧が少女の格好をしているのにも気付いていない。

 慧をケイお姉ちゃんと呼び、幼子の耳元で砂糖菓子にも似た甘い甘い声で囁く。


 私はこの和室に唯一ある文机に肘をついた。そのまま頬杖をついて、はぁと大きな息を吐いて。


「親ばかね」
「良いのよ、親ばかでー。ね、ゆーちゃん?」


 私に向かい軽く膨れてみせた彼女は、しかしすぐに幼子へと視線を戻す。

 本当に、幼子が可愛くて仕方ないといったようだった。


 そして、慧は。 

 あの硝子の瞳で。何か見えているはずなのに、何も見えていない目で。

 
 母子を見ていた慧を、無性に私は抱きしめたくなったのだ。
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