やわらかな檻
 今度は私が機嫌を損ねる番だ。

 戯言? まさか。冗談なら最初から短冊に書いたりしない。

 慧は何食わぬ顔で私から短冊の束を引き抜き、二・三枚を一度にびりびりと破っていく。

 予想はしていたものの、あえて止めさせないものの、実際にされればかなり腹が立った。


 黄緑、薄紫、朱色に橙。
 ひらりひらり、畳に鮮やかな色が散る。

 たちまち私の手の中から短冊が消え、全てが跡形もない紙くずへと変わった。


「何からの『脱出』なのかにもよりますけど、これを叶えるのは無理ですね。――絶対に叶わなくても良いならば、願いなさい。私には短冊の無駄としか思えません」


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