離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
空港からタクシーに乗り込んだ達樹さんは、運転手に都心部にある有名ラグジュアリーホテルの名前を口にする。
ホテルなんかに向かってなんのつもりだろうかととなりに座る達樹さんを見ると、その視線に気づいた彼の顔が私に向いた。
言葉もなくじっと見つめてきたと思えば、前髪の上に手の平がのってくる。
ふわふわと撫でながら微笑まれ、不覚にもどきりと鼓動が打ち鳴ってしまった。
結婚直後に離れて、一緒に過ごした時間はほぼない。
他人も同然なのに、愛おしいものにでも向けるような笑みを見せるなんてどういうことなのだろう。
耐え切れずふいと進行方向に顔を向けると、横からフッと微かに笑う気配を感じた。
それに、さっきのあのキス。
一体どういうつもりであんな……。
ちょっとした事故のようなキスだったけど、さっきのが私にとって人生初めてのキス……ファーストキスだった。
まともな恋愛経験もないままこの歳まできてしまったから、キスすら未経験だったのに、あんな簡単に済んでしまったのはショックを通り越して衝撃でしかない。
達樹さんのほうはキスのひとつやふたつ、きっとなんでもないこと。
さっきの手慣れた感じから、それは十分わかることだ。